Manny's Music - ニューヨークの音楽史を支えた伝説の楽器店(4)
閉店後のManny’s――事業はどう継承されたのか?
ニューヨークのマンハッタンに存在した Manny’s Music(マニーズ・ミュージック) は、単に楽器を販売する店ではなかった。20世紀のアメリカのポピュラー音楽、とりわけロック、ジャズ、ブルースの歴史を、楽器の販売という側面から支えてきた存在である。
世界中からミュージシャンが集まったニューヨークで、Manny’sはギター、アンプ、ドラム、キーボードなどを扱い、プロの演奏家からアマチュアまで幅広い顧客を迎えていた。店を訪れた著名なミュージシャンの写真やサインが店内を飾り、楽器を買う場所であると同時に、音楽業界の人々が出会い、情報を交換する場所にもなっていた。
その歴史を理解するうえで重要なのは、Manny’sを単なる老舗小売店として見るのではなく、楽器メーカー、プロの演奏家、ツアー・ミュージシャン、ニューヨークの音楽文化を結びつけた拠点として捉えることだ。
以下では、開店から閉店までの経緯、取り扱い製品、経営環境の変化、事業継承、店舗で起きた出来事、そして訪れた著名ミュージシャンにまつわるエピソードを、確認できる歴史的事実と伝承を区別しながら詳しく解説する。
なお、著名人に関する逸話は、写真などで来店を確認できることと、本人が実際にその店で楽器を購入したこと、店員と個人的な交流があったことを、それぞれ区別する必要がある。伝説的な店であるだけに、後年の回想や出典の不明確な話も混在しているためだ。
4. 閉店後のManny’s――事業はどう継承されたのか?
Manny’sの歴史は、2009年に完全に途絶えたわけではない。
実店舗の閉店後も、店舗の写真資料、ブランド、そして関係者の記憶は残された。
その後、ブランドの所有者も変わり、2024年には新たな展開が始まっている。
4-1. 2009年:店舗はSam Ashの別店舗へと変わった
Manny’sが閉店した後、その場所はSam Ashのギターショップとして再利用された。
ただし、Manny’sの店舗が閉じたことと、Sam Ashという企業の営業が終わったことは別の話である。
Manny’sはSam Ashの傘下で営業していたため、閉店後もSam Ashの店舗網や事業の一部として、従業員や経営資源が引き継がれた。
Ian Goldrichも、Manny’sの閉店後はマンハッタンのSam Ash店舗で働いたと、NAMMのインタビューで説明されている。
一方、Manny’sの象徴だった写真の壁は、そのままの形で維持されることはなかった。
店舗の歴史を物理的に伝えていたものが失われることになり、写真資料を保存しようとする取り組みが進められた。
4-2. 写真資料を保存する「Virtual Wall of Fame」
Manny’sの閉店に際して大きな問題となったのが、店内に飾られていた数多くの著名人の写真だった。
これらの写真には、ミュージシャンのサインや個人的なメッセージが記されていた。
そのため、写真は単なる装飾ではなく、店舗とミュージシャンとの関係を示す歴史的な記録でもあった。
Manny Goldrichの孫娘Holly Goldrichと、映像作家Sandi Bachomは、こうした写真をデジタル化して保存する取り組みを進めた。
その成果の一つが、Manny’s Virtual Wall of Fame である。
このプロジェクトでは、3,000点を超える写真がデジタルアーカイブとして紹介されたとされる。
著名人が訪れたという事実を、単に名前のリストとして残すのではなく、写真という形で保存しようとした点が重要である。
写真の壁には、The Beatles、Jimi Hendrix、Bob Dylan、ザ・フーなど、さまざまなアーティストの写真が並んでいた。
その多くは、Manny’sが音楽業界の人々と長年にわたって築いてきた関係を物語るものだった。
参考:The New Yorker「The Wall」 (新しいタブで開く)
4-3. 2013年:建物の所有者も変わる
Manny’sの閉店後、48丁目の再開発はさらに進んだ。
Judd GoldrichはNAMMのインタビューで、2013年に店舗の入っていた建物がRockefeller家側に売却された後、楽器業界での仕事を続けるためにGuitar Centerに移ったと説明している。
これは、Manny’sの歴史が単に企業経営の問題だけでなく、マンハッタンの都市構造の変化とも結びついていたことを示している。
かつて楽器店が集積していた場所は、時代とともに別の用途へと変化していった。
Manny’sという名前が残っていても、創業時からの店舗がその場所で営業を続けることは、もはやできなくなっていたのである。
4-4. 2024年:ブランドが新たな所有者のもとで復活
Manny’sにとって重要な転機となったのが、2024年のブランド再始動である。
Sam Ashが保有していたManny’sの商標は、Vista Musical Instrumentsに取得された。
その後、Manny’sはBandLabとの提携によって、デジタル領域を中心とする新たな展開を開始した。
2024年6月18日には、Manny’sの復活が正式に発表されている。
公式サイトでは、1935年にニューヨークで創業した歴史を掲げ、往年の店舗が持っていた音楽家のコミュニティという理念を、次世代のクリエイターに向けて展開する姿勢が示されている。
公式サイト:Manny’s (新しいタブで開く)
ただし、ここは明確に区別する必要がある。
2024年に復活したのはManny’sというブランドであり、ニューヨークの48丁目にあった伝説的な実店舗が再開したわけではない。
創業家が経営していた当時の店舗と、現在のブランド事業は、歴史的なつながりを持ちながらも、運営形態が異なる。
また、BandLabとの提携による展開は、往年の楽器店をそのまま再現することよりも、音楽制作やクリエイターの活動を支援することに重点を置いている。
4-5. 2024年に閉店したSam Ashとの関係
ここで、Sam Ash自体のその後についても触れておこう。
Sam Ash Musicは2024年、全米の実店舗を閉鎖する方針を発表し、同年までに店舗営業を終了した。
したがって、現在のManny’sを理解する際には、1999年にManny’sを買収したSam Ashの事業と、2024年以降のManny’sブランドを別々に考える必要がある。
かつてのManny’sはSam Ashの傘下で実店舗を運営していたが、現在のブランドはVista Musical Instrumentsのもとで新たな展開を行っている。
この一連の変化は、老舗楽器店の歴史的価値を、従来の店舗営業とは異なる方法で継承しようとする動きとして理解できる。
参考:Manny’s公式サイト (新しいタブで開く)、BandLabによる2024年の発表 (新しいタブで開く)、The New York TimesによるSam Ash閉店報道 (新しいタブで開く)