Manny's Music - ニューヨークの音楽史を支えた伝説の楽器店(2)
Manny’sはどのような楽器を扱っていたのか?
ニューヨークのマンハッタンに存在した Manny’s Music(マニーズ・ミュージック) は、単に楽器を販売する店ではなかった。20世紀のアメリカのポピュラー音楽、とりわけロック、ジャズ、ブルースの歴史を、楽器の販売という側面から支えてきた存在である。
世界中からミュージシャンが集まったニューヨークで、Manny’sはギター、アンプ、ドラム、キーボードなどを扱い、プロの演奏家からアマチュアまで幅広い顧客を迎えていた。店を訪れた著名なミュージシャンの写真やサインが店内を飾り、楽器を買う場所であると同時に、音楽業界の人々が出会い、情報を交換する場所にもなっていた。
その歴史を理解するうえで重要なのは、Manny’sを単なる老舗小売店として見るのではなく、楽器メーカー、プロの演奏家、ツアー・ミュージシャン、ニューヨークの音楽文化を結びつけた拠点として捉えることだ。
以下では、開店から閉店までの経緯、取り扱い製品、経営環境の変化、事業継承、店舗で起きた出来事、そして訪れた著名ミュージシャンにまつわるエピソードを、確認できる歴史的事実と伝承を区別しながら詳しく解説する。
なお、著名人に関する逸話は、写真などで来店を確認できることと、本人が実際にその店で楽器を購入したこと、店員と個人的な交流があったことを、それぞれ区別する必要がある。伝説的な店であるだけに、後年の回想や出典の不明確な話も混在しているためだ。
2. Manny’sはどのような楽器を扱っていたのか?
Manny’sはギターショップとして特に有名だが、実際の営業内容は、幅広い楽器と音響機材を扱う総合楽器店だった。
創業時の具体的な売上構成を示す資料は限られているため、以下では、史料で確認できる取扱分野と、Manny’sが成長した時代の音楽市場を踏まえて整理する。
2-1. エレキギター――店の象徴
Manny’sを世界的に有名にした商品の一つがエレキギターだった。
ロック音楽の発展に伴い、ギタリストにとって楽器は単なる演奏道具ではなく、自分の音を決定する重要な機材になった。
同じギターでも、メーカーやモデルによって音色、演奏性、構造、価格が異なる。さらに、ギターアンプやエフェクターとの組み合わせによっても、得られるサウンドは大きく変わる。
Manny’sには、こうした機材を実際に試しながら選びたい顧客が集まった。
特に著名なギタリストが使用するメーカーやモデルを探す顧客にとって、幅広い在庫を持つ店舗は魅力的だった。
また、ニューヨークに来たミュージシャンが、ツアー中に必要なギターや交換用の機材を調達できる点も重要だった。
Jimi Hendrixが1969年にManny’sで複数のギターやエフェクト機材を購入した記録は、こうした店舗の役割を具体的に示す事例である。
2-2. アコースティックギター
エレキギターのイメージが強いManny’sだが、アコースティックギターも取扱分野の一つだった。
フォーク、カントリー、シンガーソングライター系の音楽では、アコースティックギターが重要な役割を果たす。
ニューヨークにはフォーク・ミュージックの演奏家やソングライターも多く、ロック・バンドのギタリストだけでなく、弾き語りを中心とするミュージシャンにも楽器の需要があった。
したがって、Manny’sをロック向けのエレキギターだけを販売する店と考えるのは正確ではない。
2-3. ギターアンプ
ギターアンプも、Manny’sのような総合楽器店にとって重要な商品だった。
アンプは音量を増幅するだけでなく、歪み、コンプレッション、周波数特性などを通じて、ギターの音色そのものを形成する。
1960年代以降のロックでは、ギターとアンプを一体のシステムとして考えることが一般化していった。
そのため、ギター本体とアンプを組み合わせて比較できる店は、演奏家にとって重要な存在だった。
2-4. エフェクター
ディストーション、ファズ、ディレイ、エコーなどのエフェクターも、ギタリストにとって欠かせない機材になっていった。
Manny’sの1969年の販売記録には、Jimi Hendrixが購入したEchoplexなどのエフェクト機材が含まれている。
これは、同店がギター本体だけでなく、音作りに関わる機材も扱っていたことを示す。
2-5. ピアノ、キーボード、シンセサイザー
Manny’sは鍵盤楽器も重要な取扱分野としていた。
NAMMのHenry Goldrichに関する資料では、彼が店舗の商品構成を拡充し、新しい技術や製品を積極的に紹介したことが説明されている。
1970年代以降、シンセサイザーや電子鍵盤楽器は、プログレッシブ・ロック、フュージョン、ポップミュージックなどで存在感を増していった。
1980年代にはデジタル・シンセサイザーやサンプラーも普及し、鍵盤楽器の市場は大きく変化する。
こうした製品を探すキーボーディストやスタジオ・ミュージシャンにとっても、Manny’sは選択肢の一つだった。
2-6. ドラム、パーカッション
ドラムとパーカッションも、Manny’sの取扱分野だった。
バディ・リッチのような著名なドラマーによる店内クリニックが開催されていたことからも、ドラムが単なる周辺商品ではなく、店舗の音楽文化の一部を構成していたことがわかる。
ドラムセットは、シェル、シンバル、ハードウェアなど複数の要素から成り、メーカーや構成によって価格も大きく変わる。
演奏家が実際に製品を比較できる環境は、こうした商品を販売するうえでも重要だった。
2-7. ケーブル、弦、アクセサリー、その他の機材
楽器本体以外にも、弦、ケーブル、周辺アクセサリーなど、日常的な演奏に必要な消耗品や小物が販売されていた。
こうした商品は、ギターやアンプを購入する顧客だけでなく、すでに機材を所有している演奏家にも必要になる。
特にツアー中のミュージシャンにとって、弦やケーブルなどを現地で購入できることには実用的な意味があった。
Jimi Hendrixの購入記録にも、弦やコード類が含まれている。
2-8. 結局、何が最もよく売れていたのか?
Manny’sの全営業期間について、ギター、アンプ、ドラム、鍵盤楽器などの販売数量や売上構成を網羅した資料は、今回確認できた公開史料からは特定できなかった。
そのため、「生涯を通じて最も売れたのは特定のギターモデルだった」と断定することはできない。
ただし、店舗の知名度、著名なギタリストの来店記録、当時のロック市場を踏まえると、エレキギターとギター関連機材が、Manny’sのブランドイメージを形成する中心的な商品だったことは明らかである。
一方、店舗の実際の事業はそれよりも幅広く、鍵盤楽器、ドラム、パーカッションなども含む総合的な楽器販売だった。
したがって、Manny’sを理解するうえでは、「ギターが有名だったこと」と「ギターだけを売っていたわけではないこと」の両方を押さえる必要がある。
出典:NAMM:Henry Goldrich (新しいタブで開く)、Jimi Hendrix公式サイト (新しいタブで開く)。